デュエルマスターズで連続起業の論理を学んだ話。

僕とデュエルマスターズ

あなたの小学校ではどちらが流行っていただろうか。遊戯王デュエルマスターズ
僕の学校では後者だった。
小学校四年くらいまでは、上級生が講演の広場を占有してやっている小難しそうな何か。程度の認識で、どちらかといえばあまりいい印象は持っていなかったのだが、とうとう自分の学年にも流行が波及してきた。そんなタイミングで、友達がなぜかカードを僕に譲っていくれたことがきっかけでカードゲームなるものと接点を持つこととなった。
皆さんもご存じの通り、カードゲームで使うカードはおもちゃ屋で買う数枚セットの「パック」なる個袋で手に入れるのが正規ルートだ。裕福な家の子はお父さんやお母さんにパックをたくさん買ってもらい、細心の強い、ラメ加工の入ったかっこいいカードを手に入れるのだ。お父さんがパックを「箱買い」してくれたんだ!というのが、小学五年生の語りうる武勇伝ではかなり偉大な部類に入るのだった。僕はといえば、お風呂掃除や食器洗い、お買い物の手伝い、などで稼いだお金を握りしめ、週末ブックオフに「渉猟」に出かけた。これはなにもパックからレアカードを手に入れられる期待値を考えての行動ではなく、単純に同級生に比べてお財布事情が厳しかったからだ。しかし、この選択はプラスに働いた。みんなが見向きもしなくなったようなシーズン遅れの、しかしながら使い方によっては未だに強力なカードが、10mはあろうかという棚に所狭しと並べてあるのである。一枚一枚カードを取り出してカードの説明欄を読み込み、気に入ったカードを見つける作業は、ちょうど砂金最終のようで楽しかった。しかも、こうした、一度子供たちから忘れ去られたお古のカードをうまくデッキに組み込んで使いこなすと、友達からそれなりの注目を浴びれるのだった。こうして、狩猟採集の本能と承認欲求が満たされるのに幸福感を覚えた僕は、家の浴室やキッチンでの「労働」をカードに次々変換していった。

こうして、デュエルマスターズはお金の使い方を教えてくれただけでなく、今まで学校で孤立気味だった僕にたくさんの友達と、毎日の放課後の楽しみも与えてくれた。そして何より嬉しかったのが、大会で優勝したことである。同級生みんながパックを買いに行く地元の商店街のおもちゃ屋では、最上階(といっても屋根裏部屋のような場所で薄暗くて埃だらけだった)では、毎月、小中学生向けのデュエルマスターズの大会が開催されていた。参加人数は30人くらいで、ここで優勝すると非売品のデッキケースやプレミアムカードがもらえる。習い事が一緒の他校の友達に誘われ、僕も「デュエマ」を始めて半年後位に参加してみた。運動会やユーモアで人を沸かせるような立場ではなかった僕にとって、頭脳で勝負できながら、勝ち進めば同年代の少年たちから羨望のまなざしを受けることのできるこの場所は輝いて見えた。しかしながら、大会優勝者はたいてい、お金持ちの家の子で強いカードで出来を固めた子か、年齢制限ぎりぎりで出場している、カードオタクに片足を突っ込んでいるような上級生だった。そんな中で僕は、中古のカードだらけで構成した、流行りやセオリー丸無視のデッキで毎回挑み続けた。ついに決勝戦まで進み、周りを取り囲む観客の中で勝ちを修め、終了後に「意味不明」なデッキの構成や闘い方を彼らに訊かれた経験は、勝負の楽しさや、持たざる者として工夫を重ねて勝つことの快感を教えた原体験として今でも自分の記憶にしっかりと刻まれている。

彼とデュエルマスターズ

しかしながら僕はここで、そんな自分よりはるかに「持たざる者」でありながらはるかに頭を使い、はるかにかっこよかった人物、そう、本稿の主役を登場させなければならない。
一度カードゲームから脱線して彼の素性について書いておこうと思う。
彼は小学生男子にいがちなやせ型体型の同級生と比べてもかなり痩せており背丈も低め、何か月も切っていない髪の毛を無造作に垂らしていた。しかも、片親だから裕福ではないのか、着ている服や持ち物はボロボロだった。しかしながら、頭が非常にキレる子でよく弁がたち度胸もあったので、学年のボス的な存在だった。人望もあったので、先輩や同級生からおもちゃやお菓子を譲ってもらって毎日楽しそうに公園で遊びまわっていた。
話をカードゲームに戻そう。
①彼には当然新品のカードを買う財力はないどころか、僕の様に中古のカードを買うお金すら持ち合わせていない。ではどうするかというと、持ち前の愛嬌や友達の面倒見の良さで、先輩や友達からカードを譲ってもらうのだ。
②そうはいっても集まるカードはがらくたばかり。そんなカードや、なけなしのお金で買った中くらいの強さのカードを40枚かき集めてデッキを何とか作るのだ。彼は、そのデッキを友達との日々の勝負の中で改良を重ねる。
③そしてある日、試合をするといって公園の中の見晴らしのいい広場に同級生や上級生を集めたのだ。そしてお見事、彼はあんなガラクタだらけだったカードに工夫に工夫を重ね、次々と挑戦者を打ち負かすのだ。
④次に何をするかというと、そのデッキを、さっき打ち負かしたデッキ(+数枚のおまけ)と交換してしまうのだ。
⑤交換相手は「最強のデッキ」を手に入れて喜ぶのだが、ガラクタから「最強のデッキ」を生み出せる彼の手にかかれば、交換で得た普通のカードと補完お手持ちのカードでデッキを再構築すれば「さらに最強なデッキ」を生み出せてしまう。
⑥かれは以上のステップを何度も重ねた後、ついに例の大会へ進出するのだ。そして当然のように決勝まで勝ち進むのだった。実は彼もこの大会の優勝常連者だった。しかし彼自身は、優勝は「さも当然」という様子で、刺して喜びもしない。この後に彼がとる行動は天才的である。
⑦彼はまず、いつものように、優勝デッキをさらっとカード数枚と交換してしまう。さらに、優勝景品としてもらえるプレミアムカードさえその場で交換してしまうのだ。
⑧彼は、大体、優勝景品を受け取ってから5分もしないうちに交換まで済ませてしまっていた。彼が優勝することを知っている人たちは、大会が始まる前から彼に声をかけ、交換の条件を決めてしまっているのだ。プレミアムカードは非売品なので、お金を出して強いカードをたくさん持っているが大会では絶対に勝てない子からしたら喉から手が出るほどほしい代物なのだ。その欲望に応える形で彼は、ブックオフに行けばガラスケースの中に「¥5000」という値札と一緒に丁寧におかれているようなレアカードを手に入れてしまうのだ。
⑨次に彼がとる行動は、もう書くまでもないだろう。

デュエルマスターズと起業

以上の彼の行動は少し抽象化してみるとスタートアップのアナロジーになっていないだろうか。
①まず、人間力と行動力でカード(種銭)を集め、デッキ(会社)を作る。(起業)
②次に、皆は見逃している戦術/カードの使い方を発見(ゼロトゥワンbyイーロンマスク)し、そのアイデアの上でPDCAサイクルを放課後に公園で回す(リーンスタートアップ)。
③そのデッキで勝ちを重ね(PLを立てて)、デッキの価値を高める(会社のバリュエーションを上げる)。この③自体、観客の集客とコンテンツ創造という観点から見れば非常にマーケティング思考がうまいと言えると思う。
④デッキをまあまあ強いカードと交換する。(会社の売却、スモールM&A
⑤得られたカード(事業資金)をもとに次のデッキ(会社)を作る。
⑥そのデッキで大会で優勝する。
⑦再度デッキの交換(会社売却)
潜在的売却先まで用意している周到さ。
⑨以下、上記のステップを繰り返しながらデッキを強くしていく(会社を大きくしていく)。

僕が連続起業のスキームを知ったとき、なぜか見覚えがあるなあと思ったのだが、記憶を丁寧にたどってみるとこれに行きついた。
デッキごと交換してしまう人など、彼以外にみたことはなかったし、当時の自分も「信じられない」といった感想を持っていたが、これは、起業家以外の人に「会社を売る」と言った時に不思議そうな顔をされるのと似通っていないだろうか。
ちなみに彼はデッキ構築のアドバイス(経営コンサル)は無償でやってくれた。情報商材野になることはなく、無償で周りの人間にノウハウを提供するところまで含め経営者気質といえるだろうか?


ちなみに僕は優勝景品のプレミアムカードは未だに衣装ケースの奥にしあってある。(いつかプレミア価格つかないかなあ)